column
Classical guitar skills in the style of jazz

2. 右手の撥弦技法

まずは右手の撥弦技法について述べたいと思う。もちろんクラシックギターは指および爪を用いて弦を振動させるのであるが、ジャズギターにおいてこれを活かす場合二つのパターンがある。一つ目は完全にクラシックギターの技法をもちいて指および爪で弾くパターン、そしてもう一つはクラシックギターの技法とピックを用いる方法を組み合わせて用いるパターンである。

そのままクラシックギターのやり方を用いる場合、クラシックギターの右手のテクニックはほとんど制限を受けずに使用することができる。アポヤンド・アルアイレの使い分け、複雑なアルペジオ、トレモロなどをそのまま使うことが可能である。

ピックとフィンガーピッキングを使い分ける場合様々なスタイルに分けられる。そして一人の奏者がさまざまな使い分けをしている。ジャズを弾く時にはバッキングにもさまざまな場合(例えば、コンボでのバッキング、一人で伴奏してベース音を付け加える場合、歯切れ良くコンプしたいとき、など)があり、ソロのスタイルも数限りなくある。ここでいくつか分類してみると

a) 完全にピックを用いて(フィンガーピッキングはしない)撥弦する。

b) 親指と人差し指でピックを持ち、のこりの中指、薬指、小指と組み合わせて~4声の撥弦をする。

c) 人差し指と中指の間にピックを挟み(収納する)、親指、人差し指、中指、薬指の組み合わせで~4声の撥弦をする。

d) サムピックを用いて、残りは人差し指、中指、薬指の組み合わせで~4声の撥弦をする。

e) ピックを指から離して、親指、人差し指、中指、薬指の組み合わせで~4声の撥弦をする。(完全なフィンガーピッキング)

各奏者はこれらを上手く組み合わせて、演奏を組み立てている。例えば"BEN MONDER"は単音のソロではa)でバッキングではリズミックに弾くときはa)でストローク、普段のジャズのコンピングではb)、アルペジオや独奏の場合e)である。

それぞれのやり方は長所と短所があり、それぞれの奏法の入れ替え(ピックの持ち替え)にかかる時間も違ってくる。

a)というのはエレクトリックギターを弾く上での一般的なスタイルであり、単音で弾く場合やストローク(カッティング)に最も適しているといえる。ピックとフィンガーピッキングを使い分ける場合では、ほとんどの奏者がこのスタイルを基準としている。

b)とc)はピックを持ちながらフィンガーピッキングをしている複合スタイルである。a)からb)へは移行にロスがないし、a)からc)もなれると一瞬で移行できるようになる。このように、これらのスタイルが用いられる理由は、a)というごく普通でスタンダードなスタイルからの移行が一瞬ですむ点である。ジャズは即興的な音楽であり、これらのスタイルが必要になったのであろう。ただしこれらはピックを持っているという点で、クラシックギターの奏法が制限される。

b)は普通親指で弾く所をピック、つまり親指と人差し指を用いて演奏する。すると残りの指がシフトしていき、人差し指を使うはずの所が中指に、中指を使うはずのところが薬指に、そして薬指を使うところが小指にというふうな使い分けになる。普段小指はクラシックギターで用いられることは少ない。長さの問題もあり使用する上でフォームが変わってしまうという欠点もでてくる。アルペジオでの指の分離にも問題があるだろう。あと親指で弾くはずのところがピックになっているのだから、低音を弾くときの音質の問題もでてくる。ウォーキングベースと和音を組み合わせる奏法などでこのスタイルを用いる時には、音質の好みもあるが注意が必要であろう。

c)はb)に比べてa)からの移行が少しばかり時間がかかるが、音質面で、ほとんどe)と同じ扱いになる。親指から薬指まで、用い方もクラシックギターのテクニックと同じである。ピックの持ち替えになれが必要なのと、人差し指と中指の間にピックを挟んでいるためその2指の分離に問題がある(アルペジオなど)。

b)とc)を両方用いる奏者は少なく結局は好みでどちらかを選択するか、直接e)への移行を選ぶ。

d)はかなり特殊ではあるがサムピックを用いるスタイルである。持ち替えの必要は無く指の分離も、申し分ない。ただa)にくらべてピッキングに難が出てくる上に,フィンガーピッキングの時も親指での演奏は常にピックである。ちなみにサムピックはそれぞれの奏者が市販品を削ったり曲げたりして、自分の奏法や音に合うように加工して使うのが一般的である。

e)はそのままクラシックギターのスタイルなので説明の必要はないが、a)b)c)から移行するときピックをどうするのか、という点を述べてみたい。これもいろいろな奏者がいて例えば、口にくわえる、ギターに張り付ける、ギターのピックガードに挟む、ポケットにしまう、マイクスタンドにくっつける、譜面代に置く、すわっているときは膝の上に置く、などなどいろいろある。

これはクラシックギターのテクニックではないのだが、ジャズギターでは"WES MONTGOMERY"に代表される

f) 親指弾き

というフィンガーピッキングのテクニックが存在する。これはジャズギターではかなりポピュラーなスタイルでありオクターブ奏法やコードソロとの組み合わせも、特徴的なサウンドになる。この奏法を使う奏者は基本的にはこのスタイルのみを用いてピッキングとの併用は少ないが、基本的にはa)でありオクターブ奏法やコードソロのときのみf)という奏者も存在する。このときa)からf)への移行は、人差し指、または中指を曲げて、ピックを挟むという場合が多い。(もちろんe)のようにピックを離してもいいし、c)でもよい)

また"BRIAN SETZER"はギャロッピング(カントリースタイルのアルペジオ)に行くときa)から人差し指を曲げてf)のようにピックを収納して、親指、中指、薬指のスリーフィンガーになる。