column
Classical guitar skills in the style of jazz

3. 楽器についての考察 その1

まずは右手の撥弦技法について述べたいと思う。もちろんクラシックギターは指および爪を用いて弦を振動させるのであるが、ジャズギターにおいてこれを活かす場合二つのパターンがある。一つ目は完全にクラシックギターの技法をもちいて指および爪で弾くパターン、そしてもう一つはクラシックギターの技法とピックを用いる方法を組み合わせて用いるパターンである。

楽器の使い分けについて、大きく二つのスタイルに分けて考察してみる。一つ目は、完全にナイロン弦のギターを用いてジャズを演奏するというものだ。そしてもう一つはそれ以外のギター、つまりスチール弦のギター(俗にアコースティックギターと呼ばれる物、フルアコ、セミアコ、そして普通のソリッドのエレクトリックギター)を用いてジャズを演奏するスタイルである。

ナイロン弦ギターを用いる上ではクラシックギターから奏法の移行にほとんど障害はないだろう。どちらかといえばジャズをマスターするということの方が重要であり、技法はその上でクラシックギターのものを用いる事が出来るであろう。いくつか問題点があるとすれば、ジャズにおける単音弾きによる管楽器的なソロをどう扱うか、という点であろう。テンポにもよるがかなりの速度でのアプローチであり、しかも直線的なスケールライクな内容ばかりではなく複雑なビバップに基づく内容が要求される。つまり"PACO DE LUCIA"に代表されるフラメンコギター的なアポヤンドによるスケール弾きは、音色や内容の面でも相容れない。スラーやスライドなどを挟んだ独自の内容が、ジャズの音楽(とくにリズム)をふまえて必要になってくる。この単音でのアプローチの場合のみピックを使うという奏者も多い。

音量の大きい管楽器やピアノなどとの組み合わせ、また大きなステージなどPA設備を含めたセッティングでのナイロン弦ギターの使用は、楽器上の問題が大きい。電気化が進んだナイロン弦ギターについても、述べておきたい。

ポピュラー音楽のステージで使われるナイロン弦ギターの電気化であるが、様々な方法が採られている。

a) 完全なナイロン弦ギター(本体には何も手を加えない、完全なクラシックまたはフラメンコ用のもの)を、マイクや取り付け式ピックアップを通してPA装置で加工する。

b) 本体にピックアップの付いたナイロン弦ギターを用いる。本体で電気化された音声信号はケーブルを通してPA装置で加工する。

c) 基本的にはb)と同じであるが、用いられるナイロン弦のギターは中空の本体を持たずエレクトリックギターと同じ形状であったりパイプ状のもので形成されていたりする。

a) では楽器そのものがクラシックで用いられる物と同じであるから、演奏上テクニックの問題は少ないであろう。しかし大音量の楽器(とくにドラムセット)と演奏する上で楽器の構造上ハウリングの問題は常につきまとう。時にはサウンドホールをふさぐという手段も取られる。しかもセッティングの最終判断はPAに委ねられているため、いつでも自分の納得できる音になるとは限らない。適切なPA設備と優秀なエンジニアがいて初めて成り立つセッティングである。

b)とは俗にいう"エレガット"という物を用いるセッティングである。完全な生楽器ほどではないが、最近は良い楽器も手に入るようになってきている。ハイフレットを押さえやすくするために、カッタウェイが付いている物も多い。また、よりハウリングに強くするため、薄型の本体を持つ物や、独自の中空構造になっているものもある。実用に耐える代表的なものとして、"Ovation" "Godin" "Sadowsky"各社の物をおすすめする。"Gibson"社のChet AtkinsCE/CECモデルはソリッドのボディを持つがその形や弾いた感触よりここに分類している。

c)は最近になって、より実用的なナイロン弦ギターを求めて開発された物で、中空構造の本体を持たないため基本的にはハウリングに悩まされることはない。普通のソリッドのエレクトリックギターと同じ扱いができる。ナイロン弦が張ってあり、通常と同じ長さとサイズをもったネックが付いているという以外は自由な素材や形になっている物がほとんどである。またここに分類するセッティングのギターは、電気を通して増幅されなければ原音はほとんど鳴らないということで、深夜や大きな音を出せない時のための練習用ギターとして開発されたという経緯もある。"Yamaha"や "Aria"(Soloette)製のものはまさにこの目的のためのギターであるが、ステージ用の楽器としても最適である。ただこれらのギターはナイロン弦を用いた楽器ではあるが、弾いた感触がかなり普通のナイロン弦ギターとは違う。こちらの楽器になれることで、逆に普通のギターに触る時に違和感が出る場合もある。ここに分類される楽器はすこし特殊な楽器ととらえたほうがいいだろう。しかしステージ上では最も使い勝手がよい。"Frameworks"製の物はほかの物よりは若干高価ではあるが、弾き心地や電気化したときの音質ともに、すばらしい。

ネックのシェイプを考えた場合、それぞれの楽器がポピュラー音楽の奏者にもしっくりくるように設計されていることもある。具体的にはナット幅(弦間隔)が狭い、またネックが薄いなど、よりエレクトリックギターに近い設計になっていることが多い。これらの設定はクラシックギターのテクニックを最大限に用いるためには逆に障害になる場合も多いが、ピッキングを併用したりする場合は有利な面もあるので、各奏者により取捨選択すればいいだろう。